「逆らうものは皆、死刑だ」  きわめて傲慢な口調で己の主がそう言い放つのを見て、柊は口の端に浮かべそうになった嘲笑をこらえた。己の主ながら、愚かな男だと思う。
 死刑を宣告された罪人は、静かな怒りを湛えてこちらを見返している。極刑を言い渡されても尚動じぬ彼を、主――レヴァンタは忌々しげに睨んだ。察しの悪いレヴァンタも、もはや恐怖と武力による統治は続けられない事に気付いている。罪人は口元を歪めて不敵に笑ってみせた。
「死刑。もはやその言葉を我らが恐れぬのを、知らぬ領主さまではありますまいに。我らには、二の姫様がいらっしゃる。私がここで死すとも、姫様の歩みは止まらぬでしょう」
「黙れ!」レヴァンタは大きく片手を振り上げ、顔を怒りと屈辱で赤くする。「おい、そこの女官、俺の剣をもて!直々に首を刎ねてやる!」
 女官はびくりと肩を震わせ、すぐさま命に従う。罪人の首が飛んだのは、それから間もなくのことだった。血だまりの中、首のない胴体が直立しているのを見て、最後まで頭を垂れることのない男だったな、と柊は思った。もはやこの国に、レヴァンタに傅くものは居ないだろう。
(いよいよ、その時が迫っている)
 柊は、わずかに身震いした。全てはやはり、規定伝承の通りに進む。レヴァンタを手にかけるのは自分なのだと思うと、同情のような感情が胸をよぎる。レヴァンタは愚かではあったが、妙な素直さを持った男だった。柊の言葉をうのみにし、お前は賢い、信用できるのはお前だけだと溢す彼の姿を思い出す。
 柊は、考えを打ち消すように首を振った。
「柊、どうした。血の匂いにあてられたか」
 レヴァンタが、気遣うような声色をだす。大丈夫だと答えると、彼はそうかと素直に納得してみせた。
「まあいい。ともかく、あの二の姫とやらをどうにかしなくてはな」レヴァンタは豪快に笑った。「さあ柊、良い策があるんだろう?」
 そうですね、と答えながら、柊はそっと目を閉じた。



2009/12/20

柊は難しい